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  2017年2月:ソウル
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【2月18日(土)】 韓中日出版タイポグラフィー・セミナー(第二部)

ランチの後、カンファレンス・ホール続きの屋上に出ると北に青瓦台が見える。
青瓦台の背後を守る小山は北岳山、青瓦台手前の屋根は景福宮。右手前端は東亜日報のビル。

北岳山の手前が青瓦台、さらにその手前の屋根が景福宮。

――― 第二部 書体デザインは「ことば」のデザインである ―――

「日本の本文用明朝体を作る」
鳥海修(字游工房社社長)

鳥海修・字游工房社社長。

文字はメッセージを伝え、残すために生まれた。
その後、「書」が表現芸術として昇華していく一方で、「活字」は商業印刷の分野で、思想や文芸など、考え方や物語を言葉で表現するための黒子として発展してきた。
特に本文書体は言葉を正確に、かつ読みやすいことを目的とし、活字自体が主張することはない。
そうしたことから本文書体の理想は「水のような、空気のようなもの」になぞらえることができる(以下略)。

「中国楷書 — 書から活字へ」
汪文(Wang Wen/中国方正字庫字体設計副総監)

汪文・中国北大方正字庫字体設計副総監

中国楷書体の発展の歴史を体系的にまとめると、楷書体が書法、文字の筆記から印刷に進み、デジタル化によって情報時代に進む過程が分かる。
筆記体である楷書体の研究を通じて、漢字テキストのフォントデザインの方法と基礎理論、楷書体と教育、情報伝達、中華古代と現代の文明との関係を探る(以下略)。

「ハングル書体の動向と現状分析」
劉玎淑(Yoo, Jung Sook/前 ソウル女子大学研究教授)

劉玎淑・前 ソウル女子大学研究教授

1980年代のコンピュータの導入以来、韓国国内には数多くのフォント開発会社が設立され、デジタル技術の急速な発展によって時代の変化に伴うたくさんのデジタルフォントが開発された。
世宋大王記念事業に付設されたハングル書体開発研究院では1998年の開院以来、2004年に17社のハングルフォント開発会社、約3000種に及ぶハングルデジタルフォントの現況を報告している。
最近の(社)韓国フォント協会の報告によれば、2015年には韓国国内に45社のフォント開発会社があり、このうちの24社が国内で保有する書体は5941書体であるという。
これらの報告を元にすると、2016年には約50 - 60社のフォント開発会社と約6000種以上の多様なハングル書体が開発されているものと推察することができる(以下略)。

ここで20分の休憩。

休憩時間に先ほどの屋上に出る。
下を覗くとホテル前のメインストリート(世宗大路)の幅一杯に大型バスが隙間無く並び、遥か向こうからはデモ隊の拡声器の声がかすかに風で流れて来る。
この大規模なデモは青瓦台の住人・朴槿恵大統を糾弾しているデモで、規制しているのは日本の機動隊にあたる韓国軍兵士だとLee Hoさんが教えてくれた。

軍兵士によって交通規制された世宗大路。

世宗大路の両側にビッシリ並ぶ大型バス。

世宗大路を挟んでホテルの斜め前にソウル特別市議会の白い建物と、その奥に徳寿宮が見える。

ソウル特別市議会(右)と徳寿宮(左奥)。

――― 第三部 タイポグラフィは文化を運ぶ舟である ―――

「日本のブックデザイン」
日下潤一(ビーグラフィックス代表)

日下潤一・ビーグラフィックス代表。

新聞のコラムに、本がテーマの連続インタビューがあった。そこに登場するのはブックデザイナーから印刷者、アスリート、女優などなど。
その一回目はブックデザイナーだった。
私は以前のように『本とは何か? フックデザインは誰のためにあるのか?』などと自分に問いかけることは、このところしてこなかった。
そのささやかなブックデザイン論を読んで、久しぶりに本とその装丁について考えてみた(以下略)。

「漢字デザインの考察 — 見出し書体に基づいて」
劉釗(Liu Zhao/北京中央美術学院講師)

劉釗・中国北京中央美術学院講師

文字は文化を視覚化したものでその文化の特徴と歴史を直接反映している。
漢字は中国文化の媒介であり、楷書体は漢字フォントデザインにおいて美しいデザインを代表するものである。
この講演は「楷書体と漢字フォントデザイン」「未来回帰的なフォントデザイン歴史観」「中国フォントデザインの現代における意義」「漢字フォントの比例と美学」を中心として出版物のタイトルフォントデザインの問題点を探ってゆく(以下略)。

「ハングル本文書体比較 — 活版から電子出版」
李起盛(Lee, Ki Sung/韓国出版文化産業振興院院長)

李起盛・韓国出版文化産業振興院院長

この講演では1970年台の鉛活字による組版と、1980年代の写真植字による組版、デジタルフォントについて、本文用の書体を例に挙げて論ずる。
本文用ハングル書体の音節を比較するには音節を構成する基本字母の形とそれがどこに置かれるのかということが重要である。
ラテンアルファベットは字母の形は変わるけれども音節を先に作らずに分かち書きによって単語が構成される特性上、字母を基準線 (Base Line) に沿って水平に並べるだけでよく、位置によって形が変わることは無い。
しかしハングルの字母は、それが置かれる位置によって形と大きさが変わる。一般的に字母には子音字母と母音字母とがある。ハングルの音節を組み合わせるときの字母は、初声、中声、終声(パッチム)に区分される(以下略)。

ディスカッションとQ&A:
講師全員(座長:劉賢国)

講壇の前に机が並べられ、講師全員が着席。
筑波技術大学・劉賢国教授の司会で講師全員によるディスカッションは、講師相互への質疑と応答。残念ながらこのプログラムは時間不足。

雛壇に並んだ小宮山、日下、孫、座長の劉、尹の講師たち。

洪、鳥海、劉玎淑、劉釗、汪文の講師たち。

プログラムは閉会の辞(尹世珉/Yun, So Min、韓国出版学会会長)、告知と記念撮影(金環道、韓国出版学会理事長)へと進み、全てのプログラムが終わったのは予定を一時間以上も過ぎた午後7時過ぎ、関係者たちだけでなく聴講者も流石にくたびれた様子。

各国の講演者とセミナー関係者が揃った記念撮影。

セミナーは韓・中・日の同時通訳で進行したのだが、韓国と中国の講演者は話しているうちに熱くなってしまうのか、機関銃のような速さで言葉を放つので同時通訳が間に合わず、耳に掛けている同時通訳のイヤホンの中が『シ~ンッ!』とすることがしばしば。

セミナーの最後に主催者から『直前まで推敲を重ねた講演者の資料が同時通訳者の手に届いていなかったことと併せて、一部の講演者があまりにも早口だったために、せっかくの同時通訳がうまく機能しなかったことを深くお詫びいたします。』と挨拶していた。

今回のセミナーは文字(活字・フォント)とタイポグラフィ(組版)を一つの俎上に載せて論議するプログラムだったが、文字に偏りがちな日本の数ある同様のセミナーも工夫の余地がありそうだ。

今夜の夕食も韓国出版学会のお世話になる。
今夜は昨夜のレストラン「ハンミリ」の右隣のビルの地下一階、日本語で「山菜香」という名の蔓人参料理の専門店。蔓人参は高麗人参と似たような効能があると言われている。

韓国出版学会の権さんと同学会理事長・金環道さんにお世話になった。

写真を撮らなかったが蔓人参を材料にした料理は、ゴボウのような食感で、仄かに高麗人参に似た香りがした。

文字を作る人、使う人、文字の歴史を追う人とその夫人。

韓・中・日間相互の交流が深まるほどに、声は大きくなり足元が覚束なくなってくる。

「山菜香」で韓国出版学会の熱いもてなしを受けた後、呑み足らない諸氏が韓国出版学会理事長の金環道さんに促されて向かった先は「Bar Texas」。

ラムをずいぶんと呑んだ気がするが細かなことを思い出せない。


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